マドレーヌは、好きな焼き菓子ランキングで上位に食い込む人気の焼き菓子です。
材料もシンプルで、パウンドケーキやスポンジケーキのように泡立てや粉の混ぜ具合など、初心者には難しい判断を必要としないレシピも数多くあります。
がしかし、シンプルなだけに『材料やオーブン、作り手の技量などが仕上がりに反映されてしまう』といった、致命的ではないものの微妙な挫折を味わうお菓子でもあります。
そんなマドレーヌ女史に取り憑かれ…ブログの更新もままならない日々が過ぎておりました。

マドレーヌとは
材料はパウンドケーキとほぼ同じで、小麦粉、卵、砂糖、バター、ベーキングパウダーを加えて焼きます。
お好みでアーモンドプードル、バニラオイル(香料など)、ブランデーやリキュールを入れます。レモンの皮としぼり汁を加えることで、爽やかで風味豊かなマドレーヌになります。
マドレーヌの発祥については諸説ありますが、
- ロレーヌ公スタニスラスの料理長とパティシエが喧嘩して館を出ていった時、
召使のマドレーヌ・ポルミエが、ありあわせの材料とホタテの貝殻を使ってお菓子を作った。 - サンティアゴ・デ・コンポステーラへ向かう巡礼のために、
マドレーヌという女性が、シンボルであるホタテ貝をかたどってお菓子を作った。
など、いずれも『マドレーヌ』という女性の名にちなみます。
焼き型はホタテ型と菊型のふたつが主流ですが、日本の菊型のマドレーヌは、『パン・ド・ジェーヌ』というお菓子が日本に伝わった際にマドレーヌと混同され、その型がマドレーヌの型として使われたことによるそうです。
よく間違われるフィナンシェとの違いは、マドレーヌは全卵とバターを使用しますが、フィナンシェは卵白と焦がしバターを使用します。
マドレーヌについての考察
製法もいろいろ
(長くなりますので…面倒な方はバビュンと飛ばしてください)
マドレーヌのレシピは色々ありますが、私が見た中ではベーキングパウダーを使用するか否かで材料の分量や製法が変わり(ま、そりゃそうですな)
ベーキングパウダーを使用しないレシピだと、以下のパウンドケーキの製法で作っているものがほとんどでした。
- シュガーバッター別立て法
- ジェノワーズ法
パウンドケーキの製法についてはこちら↓ 続きを見る
【パウンドケーキの基本レシピ】コツはよく混ぜて乳化させること
ベーキングパウダーを使用するマドレーヌの一般的な製法は、
- 砂糖もしくはグラニュー糖と卵をよく混ぜる。
- 1に小麦粉、ベーキングパウダーを加え混ぜる。
- 2に溶かしバターを加え、ツヤがでるまでよく混ぜる。
- 生地を休ませてから高温で焼き上げる。
砂糖と卵を湯せんで煮溶かすものや、粉類と卵を先に混ぜるもの。バター以外の材料を一気に混ぜるレシピもあったり…
そしてパウンドケーキの製法で作ったマドレーヌは果たしてマドレーヌと呼べるのだろうか?ホタテの型で焼けばマドレーヌなんだろうか?
と、もやもやしていましたが、工房ではレモン香る昔懐かしいマドレーヌを作るので、ベーキングパウダーを使用する製法で検討してみることにしました。
材料もいろいろ
基本の材料は、小麦粉・ベーキングパウダー・砂糖・卵・バター(油脂)の5つですが、好みの味や食感を出すためにアーモンドプードルやはちみつなどの副材料を用いたり、小麦粉の種類を変えているレシピも多数あります。
マドレーヌにおける、それぞれの材料の特徴です。
材料 | 特徴 |
小麦粉 | グルテンが形成されることで、生地の骨格となる |
卵 | やわらかい生地になり、膨らみやすくなる |
バター | しっとり焼き上がり、風味とコクがでる |
アーモンドプードル | 空気と水分を抱き込んで、ふんわりしっとり仕上がる |
はちみつ | しっとり焼きあがるが、転化糖のため焼き色がつきやすい |
マドレーヌはバターケーキの一種なので、スポンジケーキ等とは食感が異なります。『ふんわり、しっとり。だけどしっかりとした食感』がポイントになるようです。
ここで焼き菓子の詰め合わせを頂いたときの一言。

全卵か卵白か、バターか焦がしバターか…
それぞれ定義はあるのですが、最近はなんとなく両者の垣根がなくなっているような気がします。
フィナンシェとの差別化や原価の関係(ここにきて現実的に)などもあるので、基本の5つの材料の中で検討してみることにしました。
グルテンと食感
始めに作ってみたレシピは、薄力粉と強力粉をブレンドしたマドレーヌでした。
先ほどの表にもあったようにグルテンは生地の骨格となります。
小麦粉のタンパク量が多くなるとグルテンも強くなり、しっかりとした食感になります。
以下、お菓子で使う主な小麦粉です。
商品名 | タンパク質 | 特徴 |
スーパーバイオレット | 6.2±0.5% | ソフトな仕上がり、ボリュームが出る |
バイオレット | 7.80% | さっくりふっくらの軽い仕上がりになる |
フラワー | 8% | お菓子以外にも幅広く料理に使える |
ドルチェ | 9.3±0.5% | 小麦の風味があり、しっとり仕上がる |
エクリチュール | 9.2±0.7% | サクサク感を出したいお菓子向き |
一番手に入りやすいのはフラワーかと思いますが、カメリアなどの強力粉とブレンドしても問題なく使えます。
ドルチェでマドレーヌを作っているレシピを見かけますが、フランスのマドレーヌに近いしっかりした食感と小麦の風味がより感じられるようです。
しっかりした食感を出すためにタンパク量が多い小麦粉を使用するときの注意点は、
グルテンを出しすぎると膨らみが悪くなるので、混ぜすぎに注意し生地を休ませることが重要です。
休ませる時間も『なし』から『冷蔵庫で一晩』と幅があり、グルテンの状態にもよりますが2~6時間休ませれば十分ではないかと思います。
油脂と食感
しっとり感を出すには牛乳やはちみつなどの水分を入れますが、基本の材料をシンプルにしたいので、油脂を検討することにしました。
(追記:牛乳を入れるとコクが増した感じがしたので、牛乳を使用したマドレーヌを採用しようと思います。)
バターはしっとり感を出しますが、入れすぎると『重くてくどい』仕上がりになります。
そこでお菓子作りにも使われる太白ごま油をブレンドすることにしました。
太白ごま油は、ごまを焙煎せずに加工した透明なごま油で、独特の香りがないためお菓子作りなどにも幅広く使うことができます。
サラダ油に比べて酸化しにくい油です。
へそと噴火
マドレーヌにはポコッと盛り上がった『へそ』がありますが、この『へそ』にはこだわりすぎなくてもいいと思います。
結果として『へそ』ができるのであって、『へそ』を出すためにレシピを変えて、味や食感も変わってしまっては本末転倒だと思うからです。
この独特な盛り上がりの要因のひとつに中心部が深いホタテ型の構造がありますが、菊型でも盛り上がりはできます。
最初は特に『へそ』のことは気にしていなかったのですが、なんでかマドレーヌがにょろっと噴火する現象が頻発しまして。
噴火の原因はベーキングパウダーの分量が多いことと、周りが先に焼き固まり、行き場のなくなった中の生地が「セイヤッ!」と出てきてしまうことが原因のようです。
かといって低温でじっくり焼くと、中が膨らみきらず外側はパサパサになってしまいます。
結論としましては
材料や製法について試作を重ねた結果、自分の好み(あくまで主観です)のマドレーヌのポイントは、
- 小麦粉はフラワーもしくはバイオレット
- ベーキングパウダーは小麦粉の2%くらい
- 油脂は太白ごま油を20%ほど配合
- 小麦粉を投入後はあまり混ぜすぎない
- 休ませる時間は常温で3時間~6時間ほど
- 最初高温で焼き、温度を下げて更に焼く
材料:マドレーヌ ホタテ型12~13個分
【粉類】 | |
薄力粉 | 70g |
ベーキングパウダー | 1.5g |
【その他A】 | |
卵 | 80g |
砂糖 | 60g |
【油脂類】 | |
バター | 60g |
太白ごま油 | 10g |
【その他B】 | |
レモンの皮(国産) | 1/2個分 |
レモンオイル(お好みで) | 適宜 |
今回使用したマドレーヌ型は一枚型ですが、貝型が一つずつ独立した天板一体型だと焼きムラが出ないのでおすすめです。が、お値段お高めです。
(追記:以外に菊型が根強い人気なので、菊型バージョンで作ろうと思います。)
菊型も熱伝導率の良いブリキ製や型離れのよいテフロン加工など、さまざまな型があります。
step
0下準備
- 卵を室温に戻しておく
- 粉類をふるっておく
- レモンの皮をすりおろしておく
- 油脂類を湯せんで40℃くらいに温めておく(バターを溶かす)
step
1
充分溶きほぐした卵に砂糖を入れる。

step
2
少し白っぽくなるまでよく混ぜる。

step
3

混ぜすぎない
step
4
温めておいた油脂類を入れ、ツヤが出るくらいまで混ぜる。

混ざった状態。
ラップをし、常温で3時間ほど生地を休ませる。

step
5
一度軽く混ぜてから、型に入れやすいように絞り袋に移す。
(絞り袋に入れると生地が扱いやすくなります)

step
6
油脂を塗った型の7分目まで生地を入れていく。
(型によっては更に強力粉をふった方がいいものもあります)

step
7
・190℃に予熱したオーブンに入れ180℃で5~6分焼く(膨らみ切るのを確認)
・160℃に下げて6~7分焼き、できあがり。

※お持ちのオーブンによって、温度・時間を調整してみて下さい。
焼きあがったら型からはずし、網などの上で冷まします。
実食:マドレーヌ
レモンがほのかに香り、ふんわりとした昔懐かしいマドレーヌに仕上がりました。
焼きたてはサクッとしますが、翌日以降は味も馴染んでしっとり感が増します。
へそもポコッと可愛らしく出ました。
砂糖が控えめのレシピですが、十分甘さを感じるので糖分を抑えたい方にもおすすめです。
マドレーヌというと、マルセイ・プルーストの『失われた時を求めて』で、紅茶に浸したマドレーヌの味から記憶が蘇るという一節が有名ですが、ほうじ茶や玄米茶のような香ばしい日本茶もマドレーヌに合うようです。

